【唐松岳 残雪期登山】八方尾根から初級者と歩く|雪山で大切な安全の考え方
白馬・八方尾根スキー場からゴンドラとリフトを乗り継ぎ、唐松岳を目指して歩いてきました。
今回は、登山を始めて2年目で雪山は6回目くらいの女性の友人、登山歴は長いものの雪山登山は2回目の妻、そして私の3人での山行です。
天候には恵まれましたが、雪山では「条件が良い=安全」とは限りません。
今回は登頂を目指しながらも、安全を最優先に判断し行動した一日となりました。
その中で実際にお伝えした雪山登山のポイントや考え方も含めて、今回の山行を振り返っていきます。
唐松岳とはどんな山か
唐松岳(からまつだけ)は、長野県白馬エリアに位置する標高2,696mの山で、北アルプス後立山連峰の一座です。
八方尾根からのルートは、ゴンドラとリフトを利用することで標高差を大きく短縮できるため、夏山では初心者にも人気の高いコースとして知られています。
一方で冬から残雪期にかけては、同じルートでも状況が大きく変わります。
稜線上は遮るものがなく、強風や雪庇、凍結斜面といったリスクが加わるため、難易度は一気に上がります。
特に唐松岳手前の稜線は細くなる箇所もあり、状況によっては確実な歩行技術と判断力が求められます。
しかしその分、五竜岳や鹿島槍ヶ岳、白馬三山など北アルプスらしい大きな景色を間近に望むことができる、非常に魅力的な山でもあります。
アクセスの良さと本格的な山岳景観を両立している点が、唐松岳の大きな魅力です。

白馬三山

五竜岳
八方尾根からのスタート

八方尾根スキー場からゴンドラとリフトを乗り継ぎ、登山口から歩き始めます。
リフト山頂で歩く準備をしているときにまず伝えたのは、雪山ではグローブを外さずにできる作業を増やしていくことが大切ということです。
アイゼンの装着や装備の細かな調整も、寒い環境の中で素手にならずに行えるようになると、行動の安全性や快適さが大きく変わります。
時間がかかっても良いので、焦らず繰り返し行いながら慣れていってほしいと伝えました。
春の残雪期は営業状況や運行時間が変わることもあるため、事前に白馬八方尾根スキー場の公式情報を確認しておくと安心です。
装備確認とアイゼン調整の重要性
アイゼンの装着に問題がないか確認したところ、1人のアイゼンの調整に違和感を感じました。
登山用品店で冬靴とワンタッチアイゼンを購入し、その場でサイズ調整もしてもらったとのことでしたが、明らかに緩めでした。
歩くだけであれば問題が出にくいこともありますが、アイゼンに負荷がかかる場面では、外れないまでもズレてしまう可能性があります。
雪山では、こうした「少しの違和感」が事故に繋がることがあります。
そのため、その場で再調整をさせてもらいました。
事故に繋がる前に直すことができて良かったと思います。
雪山初級者に伝えた基本
今回は2人とも雪山初級者ということもあり、スタートからヘルメットを装着してもらいました。
持っているのに使わないのは意味がありませんし、アイゼンでの歩行に慣れていない間は転倒リスクもあるため、念のためではなく必要な装備として使ってもらっています。
友人の女性は、この冬に登山用品店が開催する雪山登山講習にも参加していたそうです。
ただ、ガイド1人に対して参加者が8人いたこともあり、説明を受けたものの十分に理解しきれなかった部分も多かったようでした。
そのため今回は、基本を一つひとつ確認しながら、
・歩き方のコツ
・ピッケルの使い方
・ストックとピッケルの使い分け
・雪山のルートと夏山のルートは同じとは限らないこと
などを伝えていきました。
特に、登山アプリなどを使って夏道に沿って歩いているつもりでも、雪の状況によっては知らないうちに危険なルート取りになってしまうことがある、という点は雪山ではとても重要です。
また、滑落停止訓練の大切さはもちろんありますが、それ以前に大切なのは転倒しないことです。
滑り出してから止めることを学ぶ前に、まずは転ばないこと、もし転倒してしまった場合でも滑り出す前にピッケルなどを使って止まることの方が重要です。
そのうえで、安全を担保できる斜面で滑落停止訓練をしておくことは有用だと思っています。
雪山では、ただ歩くだけでなく、装備の扱いや歩き方、ピッケルの使い方などを一つずつ身につけていくことが大切です。以前に西穂高岳・独標手前まで歩いた雪山登山講習の様子については、こちらの記事にもまとめています。
ペース配分と行動管理
今回は時間が間に合えば唐松岳登頂を計画していましたが、スタート時に引き返すリミットを伝えていました。
これは夏でも冬でも同じで、タイムリミットを設定して必ず守ることは非常に重要です。
「あと少しだから」とズルズル計画を変更してしまうことは、最悪の場合、遭難に繋がります。
また、計画通りに歩けなかったのであれば、どこかに無理があるということです。
体力不足、技術不足、そもそも計画に余裕がないなど、遅れが生じる理由は様々ですが、次に活かすためには「何が足りなかったのか」を考えることが大切です。
2人とも夏山であればコースタイムより少し早いくらいで歩けるようですが、アイゼンを履くことで足元は重くなり、慣れていないこともあり当然ペースも落ちます。
また、2人ともやや体力任せで歩く傾向があったため、ペース配分についても伝えました。
急斜面の登りではゆっくりと、平坦な道では少し早めに、緩やかな斜面では息が上がりすぎない一定のペースで歩くこと。
疲れないように歩き、1日歩き終えたあとにも体力や気持ちに余力を残せるようにすることが大切です。
そのためには、自分がどれくらいの距離、標高差、季節条件でどう歩けるのかというデータを知っておくことも大事です。
今は登山アプリを使えば、時間やペースなどのデータを見える化しやすいので、単なる道案内としてではなく、自分自身を理解するための道具として活用するのも良いと思います。
ルート判断とタイムリミット

今回の登山は、天気も良く、風も弱く、天候の崩れも小さい予報でした。
そのため、私自身も初級者2人と同行しても安全を確保できると判断して入山しています。
ただし、天気が良いからといって何でも進んで良いわけではありません。
今回は唐松岳には登頂しませんでした。
タイムリミットの問題もありますが、時間ギリギリまで進むと、ペース的に細い尾根の上で折り返すことになりそうでした。
細い場所で立ち止まって下山の準備をしたり、行動を切り替えたりするのは危険です。
そのため、少し早めに引き返す判断をしました。
大切なのは「気持ちでやめる」のではなく、その判断に至る明確な理由があることだと思います。
登山において「これをやれば絶対安全」ということはありません。状況により正解は無数にあるからです。
答えを求めず、決めつけず、臨機応変に危険要素を取り除くことや極力減らす行動が大切です。

下山時のリスクと対応
下山時の方が、転倒や滑落のリスクは高まります。
そのため、ストックからピッケルに持ち替えてもらいました。
ピッケルの持ち方、ピックの向き、転倒したときにどのように使うのが良いかなど、伝えたいことは本当にたくさんあります。
ただ、一度に多くを伝えすぎても落とし込むのは難しいので、今回はまず「知らないと大怪我や重大事故に繋がること」を避けるために必要なことを繰り返し伝えました。
また、滑落しても大きなリスクのない斜面では、どういう歩き方をすると滑るのか、どういうときに転倒しやすいのかも体感してもらいました。
アイゼンを信じて歩くにも慣れが必要ですし、同時にアイゼンの限界を知ることも大切です。
雪山で大切な「慣れ」と「理解」
雪は気温や日射によって雪質がかなり変化します。
同じ場所でも、時間帯や天候次第で歩きやすさや危険性は大きく変わるため、その時の雪質に対応できる応用力が必要です。
また、ステップアップを焦らないことも大切だと思っています。
雑誌などで紹介される「次はこの山へ」といったステップアップの考え方を参考にすること自体は悪くありませんが、それを鵜呑みにしすぎるのは危険です。
同じ山でも、1月の厳冬期と3月の残雪期では注意する点がかなり違います。
個人的には、ホームマウンテンをつくり、同じ山を様々な季節や天候で繰り返し登ることで、多くの気付きが得られると思っています。
それが結果として、一番確実なレベルアップに繋がるのではないでしょうか。
今回の山行を振り返って
今回は唐松岳には登頂しませんでしたが、非常に内容の濃い山行になりました。
下山したときには、私の伝えた雪山登山の基本や考え方にも満足してもらえたようで良かったです。
そして、復習しないと忘れてしまう部分も多いため、初歩的な内容を復習するために「雪山登山入門」のような雑誌を読むことも勧めました。
最初にそういった本や雑誌を読んでも、実際の経験がないうちは理解しにくいことが多いですが、実際に歩いたあとで読むと、自分が体験したことと結びついて理解が進みやすくなります。

この冬から雪山登山を始めた方、まだ雪山に慣れていない方も、レベルアップを焦らず、事故のないように山を楽しんでいただけたらと思います。

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